哲学者図鑑
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願いの伝道者

叶わないと分かっていても、語り続ける

ジャン=ジャック・ルソーの似顔絵

ジャン=ジャック・ルソー

1712年〜1778年(ジュネーヴ/フランス) / 比べる心が、鎖になる

「人間は自由なものとして生まれた。しかし、いたるところで鎖につながれている」

— 『社会契約論』第1篇第1章

L'homme est né libre, et partout il est dans les fers.

他人の目に映った自分を、自分だと思い込んでいないか。
意匠:鏡を手にしているが、映っているのは他人の顔

あなたへ

他人の投稿を見たあと、少しだけ自分が薄くなる感じがしませんか。うらやましいわけでもない、嫌いなわけでもない。ただ、自分がどこにいるのかが分からなくなる。ルソーはその感覚に、250年前に名前をつけました。人は他人の判断からしか、自分が存在している感覚を引き出せなくなる、と。SNSが作った病ではありません。もっと前からあって、いまは見えやすくなっただけです。比べるのをやめるのではなく、比べている自分を一度外から見る。彼が用意したのはその一手でした。

この人はこう考えた

ルソーは自己愛を二つに分けた。ひとつは自分を大切にする素朴な感情。もうひとつは他人と比べて優位に立ちたいと願う虚栄心。人を苦しめるのは後者のほうだ、と彼は言う。「自然に帰れ」とは山に住めという話ではなく、比較から降りて、自分本来の姿を取り戻せという意味だった。

こういうときは、この言葉

他人の目が気になって、自分がどこにいるか分からなくなるとき

「未開の人は自分の中に生きる。社会に生きる人はつねに自分の外にいて、他人の意見の中でしか生きられない。自分が存在しているという感覚さえ、他人の判断から引き出している」

le sauvage vit en lui-même ; l’homme sociable toujours hors de lui ne sait vivre que dans l’opinion des autres, et c’est, pour ainsi dire, de leur seul jugement qu’il tire le sentiment de sa propre existence

— 『人間不平等起源論』第2部

1755年の文章である。SNSが作った病ではない。もともとあったものが、見えやすくなっただけだ。

なぜこんな世の中なのか、と思うとき

「ある土地に囲いをして「これは俺のものだ」と言うことを思いつき、それを信じるほど素朴な人々を見つけた最初の者が、社会の真の創立者であった」

Le premier qui, ayant enclos un terrain, s’avisa de dire : Ceci est à moi, et trouva des gens assez simples pour le croire, fut le vrai fondateur de la société civile

— 『人間不平等起源論』第2部 冒頭

格差は人間の本性ではなく、ある日誰かが始めた取り決めにすぎない、という見方。始まりがあるものには、終わりもありうる。

考えすぎて、動けなくなるとき

「考えこむという状態は自然に反した状態であり、思索する人間は堕落した動物である」

l’état de réflexion est un état contre nature, et que l’homme qui médite est un animal dépravé

— 『人間不平等起源論』第1部

考えることを職業にした人が書いている。だから効く。反省が足りないのではなく、多すぎる日もある。

自由になりたいのに、何をすればいいか分からないとき

「欲望のままに動くことは奴隷状態であり、自分で自分に課した掟に従うことが自由である」

l’impulsion du seul appetit est esclavage, & l’obéissance à la loi qu’on s’est prescrite est liberté

— 『社会契約論』第1篇第8章

したいことを全部する状態を、彼は自由と呼ばなかった。自由とは、自分で引いた線を自分で守れることだった。

入口になる本

本命
社会契約論
ルソー/桑原武夫・前川貞次郎 訳(岩波文庫)
「鎖につながれている」の一文が、どんな話の始まりだったのかが分かる。
まず読むなら第1篇。「鎖につながれている」は最初の数行に出てくる
読み終えると自由が「何でもできること」ではないと分かる。答えは第1篇第8章にある
向かないのは政治のしくみが主題。個人の悩みに直接効くのは『人間不平等起源論』のほう
本命
人間不平等起源論
ルソー/本田喜代治・平岡昇 訳(岩波文庫)
人が人と比べ始めた瞬間に何が起きたのか。SNSに疲れた人ほど刺さる。
まず読むなら第2部の冒頭から。「これは俺のものだ」の一節がそこにある
読み終えるとSNSで感じる息苦しさの正体に、250年前につけられた名前が手に入る
向かないのは本文と同じくらい長い原注がつく。まず本文だけ追う読み方でいい
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