哲学者図鑑
情・受・他・先
受け継ぐ語り部

自分の代では終わらない話をしている

老子の似顔絵

老子

紀元前6世紀ごろ(中国) / 力まず、水のように

「上善は水の若し」

— 『老子道徳経』第8章

上善若水

掴もうとすると、もう手の中にいない。
意匠:輪郭が滲み、髪が水のように流れ続けている

あなたへ

強くならなければ、と思っていませんか。折れない自分、動じない自分。目指しているうちに、いつのまにか息が浅くなっている。老子はその逆を言います。生きているものは柔らかく、死んだものは硬い、と。木も、草も、人も。硬くなったほうが強そうに見えるのは、折れる直前だからです。いま力を抜くことは、負けを認めることではありません。まだ折れていない、という証拠のほうです。

この人はこう考えた

水は四角い器では四角く、丸い器では丸くなる。争わず、人の嫌がる低いところへ流れていく。それでいて、長い時間をかければ硬い岩をも削る。老子は「柔らかいものが硬いものを制する」と説いた。力で押し返せない相手の前で、形を変えることは負けではない。

こういうときは、この言葉

人に勝ちたい気持ちが、止まらないとき

「人を知る者は智、自分を知る者は明。人に勝つ者は力があり、自分に勝つ者こそ強い。足るを知る者が富む」

知人者智,自知者明。勝人者有力,自勝者強。知足者富。

— 『老子道徳経』第33章

勝ち負けの土俵を、相手との間から自分の中へ移す。移した瞬間、相手はもう関係なくなる。

もっと欲しいのに、少しも満たされないとき

「強く愛せば、必ず大きく費やす。多く蓄えれば、必ず厚く失う。足るを知れば辱められず、止まるを知れば危うくない」

是故甚愛必大費,多藏必厚亡。故知足不辱,知止不殆,可以長久。

— 『老子道徳経』第44章

手放すのが惜しいのではなく、増やしたぶんだけ失う恐れも増えている。老子はそこを見ていた。

やることが大きすぎて、動けないとき

「ひと抱えの大木も、細い芽から生まれる。九層の高台も、ひと盛りの土から起こる。千里の道も、足もとの一歩から始まる」

合抱之木,生於毫末;九層之臺,起於累土;千里之行,始於足下。

— 『老子道徳経』第64章

同じ章に「終わりを始めのように慎めば、失敗しない」とある。始めよりも、続きのほうが難しいと知っていた人の言葉。

強くあらねばと、自分に鞭を打つとき

「人が生きているときは柔らかく、死ねば硬い。草木も生きているうちは柔らかく、死ねば枯れて硬くなる。硬く強いものは死の仲間、柔らかく弱いものは生の仲間だ」

人之生也柔弱,其死也堅強。草木之生也柔脆,其死也枯槁。故堅強者死之徒,柔弱者生之徒。

— 『老子道徳経』第76章

この章は「兵が強ければ滅び、木が強ければ折れる」と続く。強さは、折れる寸前の姿でもある。

入口になる本

入口
老子
老子/蜂屋邦夫 訳注(岩波文庫)
短い章の連なりなので、疲れている日に1章だけ読める。原文・書き下し・現代語訳・解説が並ぶ。
まず読むなら第8章「上善は水の若し」から。1章が数行なので、目についた章だけ読めばいい
読み終えると力で押し返せない相手の前で、形を変えることが負けではないと思えるようになる
向かないのは体系立った説明を求める人には向かない。同じことが、言い方を変えて何度も出てくる
本命
老子・荘子
森三樹三郎(講談社学術文庫)
老子と荘子を並べて読むと、「受け入れる」が諦めではなく戦略だと分かってくる。
まず読むなら老子を扱う章から。荘子は後まわしでいい
読み終えると「受け入れる」が諦めではなく戦略だと、自分の言葉で人に説明できるようになる
向かないのは原文や書き下しを一つずつ味わいたい人。それなら訳注のある岩波文庫のほうが向く
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