哲学者図鑑
理・変・己・今
即断の設計者

迷う時間があるなら、もう手を動かしている

ウィリアム・ジェイムズ

1842年〜1910年(アメリカ) / 決意は、動かねば腐る

「あなたが下したすべての決意について、また身につけたい習慣の方向に心が動いたすべての瞬間について、行動に移せる最初の機会を、何をおいてもつかまえよ」

— 『心理学原理』第4章「習慣」

Seize the very first possible opportunity to act on every resolution you make, and on every emotional prompting you may experience in the direction of the habits you aspire to gain.

同じ服だ。違うのは、袖を通した回数だけだった。
意匠:同じ仕立ての上着を二着持っている。一着は新品のまま腕に掛け、着ているほうだけが体の形に落ちきっている

あなたへ

決めたはずのことが、まだ一つも始まっていない。手帳には書いた。人にも言った。それでも今日も、着手だけが明日へ送られていく。あなたはたぶん、自分を意志の弱い人間だと思っている。でも思い出してほしい。いま続いていることは、どれも「決意したから」続いているのではありません。気づいたら体のほうが先に動いていたから続いている。足りないのは意志ではなく、決意と体のあいだにある、いちばん小さな一度目です。

この人はこう考えた

今年こそ、と決めたことが、まだ何も始まっていない。ジェイムズはそれを意志の弱さとは呼びませんでした。決意が形にならないのは、脳が「実際に動いた回数」しか記録しないからだと考えたのです。彼は習慣を服にたとえます。新品の上着は体に沿わないが、着るほどに形が移る。形を移すのは決意ではなく、袖を通した回数のほうです。だから助言はひとつしかありません。決めたら、その日のうちにいちばん小さな一度目を置くこと。動かないまま蒸発した決意は、次の決意の通り道まで塞いでしまうからです。

こういうときは、この言葉

今度こそ変えたい、と思ったとき

「できるかぎり強く、はっきりした一歩で自分を発進させること」

we must take care to launch ourselves with as strong and decided an initiative as possible

— 『心理学原理』第4章「習慣」

小さく始めるより、初速を全部使い切る。あとから足せる勢いは無い。

一度くらいなら、と思ってしまうとき

「新しい習慣が生活にしっかり根を張るまでは、一度の例外も許してはならない」

Never suffer an exception to occur till the new habit is securely rooted in your life

— 『心理学原理』第4章「習慣」

巻き取っていた糸玉を落とすようなもの。一度の滑りが、何十回分をほどく。

今日サボっても誰も見ていない、と思うとき

「私たちは自分の運命を紡いでいる。善であれ悪であれ、二度とほどけない。どんなに小さな徳の一撃も、悪徳の一撃も、ごく小さな傷あとを必ず残す」

We are spinning our own fates, good or evil, and never to be undone. Every smallest stroke of virtue or of vice leaves its never so little scar.

— 『心理学原理』第4章「習慣」

「今回は数えない」は本人の申告にすぎない。神経のほうは全部数えている。

何を選ぶかだけで一日が終わってしまうとき

「優柔不断だけが習慣になっていて、葉巻に火をつけるにも、一杯飲むにも、起きる時間も寝る時間も、仕事にとりかかることさえ、いちいち意志の熟慮の対象になっている人ほど、みじめな人間はいない」

There is no more miserable human being than one in whom nothing is habitual but indecision

— 『心理学原理』第4章「習慣」

決める力は有限。日課にできることは日課にして、本当に迷う一つに残す。

入口になる本

入口
プラグマティズム
W・ジェイムズ/桝田啓三郎 訳(岩波文庫)
講義をそのまま起こした本なので話し言葉で進む。堂々巡りしている問いを「どちらだと実際に何が変わるか」に置き換える手つきが、最初の50ページで手に入る。
まず読むなら第二講「プラグマティズムの意味」から。リスを追う男の話で始まる。20ページ
読み終えると決められない議論を前にしたとき、「この違いは実際どこに出るのか」と問い直せるようになる
向かないのは厳密な論証を求める人。大づかみな議論だと当時から批判されていて、そこは今読んでも粗い
本命
心理学(上)
ウィリアム・ジェイムズ/今田 寛 訳(岩波文庫)
引用した「習慣」の章の現物。三つの格率が並ぶ数ページが本体で、そこだけでも読む価値がある。
まず読むなら「習慣」の章から。前半は感覚と脳の話なので、そこは飛ばしてよい
読み終えると「意志が弱い」で片づけていたことを、神経の仕組みとして扱い直せるようになる
向かないのは頭から通読しようとする人。19世紀の生理学の記述が長く、そこで止まる
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