哲学者図鑑
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時を待つ記録者

今は書き留める。答えは後から来る

デイヴィッド・ヒュームの似顔絵

デイヴィッド・ヒューム

1711年〜1776年(スコットランド) / 成功法則は、ただの習慣

「理性は情念の奴隷であり、また奴隷であるべきだ」

— 『人間本性論』第2巻第3部第3節

Reason is, and ought only to be the slave of the passions

「Aをすれば必ずBになる」を、彼は最初に破り捨てた。
意匠:因果を示す矢印を描いた紙を、あえて破って手に持っている

あなたへ

「これをやれば必ずうまくいく」を、いくつ試してきましたか。早起き、手帳、朝の運動。続かなかったのは意志が弱いからだと思っているなら、ヒュームはそこを否定します。うまくいった人の話は、その人が繰り返し見た光景にすぎない。因果ではなく習慣です。だから、あなたに同じことが起きる保証はもともとありません。がっかりする話に聞こえますか。逆です。守れなかったのはあなたの欠陥ではなく、最初から約束されていなかっただけ。信じる度合いを、証拠の強さに合わせて下げていい。

この人はこう考えた

火に触れば火傷する。私たちはそこに必然的な結びつきがあると信じている。だがヒュームは「そんな結びつきはどこにも観察できない」と言った。あるのは「Aの後にBが起きた」という反復だけで、因果とは人間の心が作った習慣にすぎない。世に溢れる成功法則も、誰かの過去の反復を法則と錯覚しているだけである。

こういうときは、この言葉

絶対に正しいやり方があるはずだ、と探し続けてしまうとき

「習慣こそが、人生の偉大な導き手である。経験を役立つものに変え、過去と似た出来事が未来にも起こると期待させるのは、この原理だけだ」

Custom, then, is the great guide of human life. It is that principle alone which renders our experience useful to us, and makes us expect, for the future, a similar train of events with those which have appeared in the past.

— 『人間知性研究』第5章第1部

習慣を低く見た言葉ではない。理性ではなく習慣が私たちを運んでいる、という事実の指摘である。

経験者の「必ずこうなる」を信じきれないとき

「経験にもとづく推論はすべて、推理の結果ではなく、習慣の結果である」

All inferences from experience, therefore, are effects of custom, not of reasoning

— 『人間知性研究』第5章第1部

その人が何度もそう見た、というだけのこと。あなたの場面で成り立つ保証は、はじめからどこにもない。

どこまで信じていいか分からず、決められないとき

「賢い人は、証拠の強さに応じて、信じる度合いを決める」

A wise man, therefore, proportions his belief to the evidence.

— 『人間知性研究』第10章第1部

信じるか疑うかの二択にしない。「7割はそうかもしれない」で止めておく態度のことである。

理屈では分かっているのに、気持ちがついてこないとき

「全世界が滅ぶことより、自分の指の擦り傷を避けるほうを選んだとしても、それは理性に反してはいない」

It is not contrary to reason to prefer the destruction of the whole world to the scratching of my finger.

— 『人間本性論』第2巻第3部第3節

何を望むかを決めるのは理性ではない、という主張の極端な例。気持ちが理屈に従わないのは、あなたの弱さではない。

入口になる本

入口
人間知性研究
ヒューム/神野慧一郎・中才敏郎 訳(京都大学学術出版会)
主著より短い。「絶対に正しいやり方」を疑う視点が、一冊で手に入る。
まず読むなら第4章と第5章。「明日も太陽が昇る」となぜ言えるのかを扱う中心部分
読み終えると「絶対にこうすべき」と言われたとき、その根拠が経験なのか推理なのかを見分けられる
向かないのは18世紀の論文なので一文が長い。結論だけ知りたい人には向かない
本命
人間本性論
ヒューム/木曾好能ほか 訳(法政大学出版局)
「理性は情念の奴隷」がどんな議論の結論だったのかを、原文で確かめられる。
まず読むなら第2巻第3部第3節。「理性は情念の奴隷」の議論そのものがここにある
読み終えると感情を理性でねじ伏せるという発想そのものを、疑えるようになる
向かないのは全3巻の大著。通読ではなく、目的の節だけ引く本として持つのがいい
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