哲学者図鑑
理・変・他・今
現場の交渉人

理屈で人を動かし、今日を変える

メアリー・パーカー・フォレットの似顔絵

メアリー・パーカー・フォレット

1868年〜1933年(アメリカ) / 妥協するな、統合せよ

「誰も本当は妥協などしたくない。妥協とは、何かを手放すことだからだ」

— 「建設的コンフリクト」1925年講演(『動態的管理』第1章)

no one really wants to compromise, because that means a giving up of something

こちらを閉じたまま、あちらを開ける。それが彼女の答えだった。
意匠:襟のブローチが、閉じた窓と開いた窓の二枚組になっている

あなたへ

いま、譲るかどうかで迷っていませんか。相手の言い分にも一理あると分かる。だから折れようとする。けれど折れたあとに残るのは、納得ではなく「今回は引いた」という記憶です。フォレットなら、その迷いにこう言います。譲る量を計算するのをやめなさい、と。問うべきは「どこまで引くか」ではなく「相手は本当は何が欲しいのか」。要求ではなく、要求の理由を聞きにいく。そこから先は、勝ち負けの話ではなくなります。

この人はこう考えた

ハーバードの図書館で、彼女は窓を閉めたかった。同室の男は開けたかった。二人が選んだのは我慢の分け合いではなく、誰もいない隣室の窓を開けることだった。フォレットは争いの扱い方を三つに分ける。押し切る(支配)、分け合う(妥協)、そして双方の望みが丸ごと残る形をつくる(統合)。妥協した争いは必ず再燃する。手放したものを、人はいつかまた取りに来るからだ。彼女は対立を悪と呼ばなかった。摩擦は消すべきものであると同時に、機関車を走らせている力でもある。

こういうときは、この言葉

「話し合っても平行線だ」と感じたとき

「対立とは、意見や利害の違いが現れたということにすぎない。それは戦争ではない」

to think of it not as warfare, but as the appearance of difference, difference of opinions, of interests

— 「建設的コンフリクト」1925年講演(『動態的管理』第1章)

対立を「敵が現れた」と読むか「違いが現れた」と読むかで、次の一手が変わる。彼女は後者しか採らなかった。

揉めごとを避けたくてたまらないとき

「対立=違いは、この世にある。避けられない以上、使うべきだ。責めるのではなく、働かせよ」

As conflict—difference—is here in the world, as we cannot avoid it, we should, I think, use it. Instead of condemning it, we should set it to work

— 「建設的コンフリクト」1925年講演(『動態的管理』第1章)

摩擦をゼロにするのが目的ではない。摩擦は、機関車を前へ進ませている力でもある。

とりあえず折り合いをつけたいとき

「妥協とは、双方が少しずつ譲ること。中断していた活動を、また動かすためだけの手段だ」

each side gives a little in order to have peace, or, to speak more accurately, in order that the activity which has been interrupted by the conflict may go on

— 「建設的コンフリクト」1925年講演(『動態的管理』第1章)

妥協は悪ではない。ただ、問題を先送りしているだけだと彼女は見た。手放したものを、人はいつかまた取りに来る。

相手を言い負かしたくなったとき

「支配とは、一方が他方に勝つこと。その場では最も楽だが、長い目で見ればたいてい成功しない」

Domination, obviously, is a victory of one side over the other. This is the easiest way of dealing with conflict, the easiest for the moment but not usually successful in the long run

— 「建設的コンフリクト」1925年講演(『動態的管理』第1章)

押し切った相手は、消えたのではなく黙っただけである。

入口になる本

入口
組織行動の原理
メアリ・P・フォレット/米田清貴・三戸公 訳(未来社)
講演の記録なので話し言葉で進む。図書館の窓の話も賃金交渉の話もここにある。理論書より先にこちらを開くほうがいい。
まず読むなら第1章「建設的コンフリクト」。図書館の窓の話はここにある。20ページほどで読める
読み終えると揉めごとの最中に「これは支配か、妥協か、統合か」と自分で分類できるようになる
向かないのは結論だけ知りたい人には向かない。講演録なので、話が行きつ戻りつする
本命
創造的経験
M・P・フォレット/三戸公 監訳(文眞堂)
「統合」がなぜ妥協より強いのかを、経験そのものの成り立ちから説き起こす。彼女の理論の本体。
まず読むなら「統合」を扱う章から。前半の認識論は後回しでよい
読み終えるとなぜ妥協より統合が強いのかを、自分の言葉で人に説明できるようになる
向かないのは4,950円と高く、理論書として硬い。まず『組織行動の原理』を読んでからでよい
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