理・受・他・今
場を読む調停者
正しさより、成り立つ形を探す
孔子
紀元前551年頃〜紀元前479年頃(中国・魯) / 同じ意見にならずに、一緒にいる
「すぐれた人は、調和するが同調しない。つまらない人は、同調するが調和しない」
— 『論語』子路篇 第23章
子曰:「君子和而不同,小人同而不和。」
先に鳴らさないのが、この人の流儀だった。合わせるとは、同じ音を出すことではない。違う音のまま、一つの曲として成り立たせることだ。
意匠:小脇に抱えた琴。弦は張ってあるが、彼はまず相手の歌を終わりまで聞き、もう一度歌わせてから、あとを追って合わせる
あなたへ
あなたはたぶん、その場をこわさないほうを選んできた人です。違うと思っても、言えば角が立つ。だから合わせる。合わせたあとで、なんだか自分が薄くなった気がして、家に帰ってから考え込む。孔子なら、そこで我慢の話をしません。あなたがやったのは調和ではなく同調だ、と名前を分けてきます。違う意見のまま同じ場にいることはできる、それを調和と呼ぶのだ、と。黙るか、ぶつかるか。その二択だと思っていたものに、彼は三つ目を置いていきます。
この人はこう考えた
孔子は、政治家としては失敗した人です。魯の国で官職に就いたものの短期間で行き詰まり、紀元前498年ごろから14年ほど、自分の考えを聞いてくれる君主を探して国々を歩き、見つからないまま故郷に帰りました。『論語』は本人の著作ではなく、弟子たちが聞いた言葉を持ち寄って、死後に何世代もかけて編んだ記録です。だから体系的な理論書ではありません。誰かの質問があり、それへの短い返事がある、という断片の集まりです。読むと分かるのは、彼が「正しさ」を一人で立てようとしなかったことです。話は必ず、誰と誰のあいだで何が起きているか、から始まる。そして答えは、今日の自分の側でできる一手に落とされます。壮大な理想を語る人ではなく、場をどう成り立たせるかを考え続けた人です。
こういうときは、この言葉
早く結果を出さないと、と焦っているとき
「速さを求めるな。小さな利益に目をやるな。速さを求めれば、かえって届かない。小さな利益に目をやれば、大きな仕事は成らない」
子夏為莒父宰,問政。子曰:「無欲速,無見小利。欲速,則不達;見小利,則大事不成。」
— 『論語』子路篇 第17章
弟子が地方の長官に任じられたときの助言。焦るなという精神論ではなく、焦ると届かない、という順番の話をしている。
まわりに分かってもらえない、と感じるとき
「人が自分を分かってくれないことを、気に病むな。自分が人を分かっていないことのほうを、気にしなさい」
子曰:「不患人之不己知,患不知人也。」
— 『論語』学而篇 第16章
我慢しろという話ではない。向きを入れ替えているだけ。分かってほしいその相手を、自分はどれだけ知っているか。
やってしまった失敗を、何日も引きずっているとき
「あやまちがあって、それを改めない。それをこそ、あやまちという」
子曰:「過而不改,是謂過矣。」
— 『論語』衛霊公篇 第30章
失敗そのものは、まだあやまちに数えられていない。悔やんでいる時間を、直す一手に替えられるかどうかだけを見ている。
相手にどう接すればいいのか、迷っているとき
「子貢が尋ねた。「生涯これ一つを行えばよい、という一言はありますか」。先生は言った。「恕であろうか。自分が望まないことを、人にしてはならない」」
子貢問曰:「有一言而可以終身行之者乎?」子曰:「其恕乎!己所不欲,勿施於人。」
— 『論語』衛霊公篇 第24章
してあげなさい、ではなく、しないでおきなさい、と書かれている。相手の望みが分からないときでも、こちらは今日から使える。
まわりが自分より優れて見えて、小さくなっているとき
「三人で歩けば、必ずそこに自分の師がいる。よいところを選んで従い、よくないところは自分の側を改める」
子曰:「三人行,必有我師焉。擇其善者而從之,其不善者而改之。」
— 『論語』述而篇 第22章
優れた人から学べ、という話だけではない。苦手な人も自分の直す場所を教えている、という数え方をしている。
入口になる本
入口
論語入門
井波 律子(岩波書店、2012年5月、250ページ)
『論語』から146の章を選び、話の流れが分かる順に並べ直した本です。いきなり全文に当たると、短い断片が延々と続いて迷子になります。この本は、誰がどんな場面で言ったのかを添えてくれるので、孔子と弟子たちのやりとりとして読めます。人物としての孔子から入りたい人に向いています。
まず読むなら孔子その人と弟子たちを扱う章から。原文が読めなくても最初から読み通せます
読み終えると断片の寄せ集めに見えていた『論語』が、誰かの質問と返事の記録として見えるようになる
向かないのは原文をすべて自分で確かめたい人。選ばれた章だけを扱うので、全文は載っていません
本命
論語
孔子/金谷 治 訳注(岩波書店、1999年11月、430ページ)
このページの引用と格言5件は、すべて『論語』から採りました。全20篇の全文に、漢文・書き下し・現代語訳・注が付きます。1冊で原文まで戻れるので、気になった一句を自分の目で確かめられます。なお、この本自体はどの版でも読めますが、章の番号は版によってずれることがあります。
まず読むなら子路篇から。このページの引用「君子和而不同」があり、人とどう付き合うかの章が集まっています
読み終えると座右の銘として切り取られてきた一句が、もともと誰の質問への返事だったのかが分かる
向かないのはすぐ使える処世術がほしい人。短い断片が続くので、通読して筋を追う読み方には向きません。また身分や男女をめぐる当時の前提がそのまま出てくるため、すべてを現在の規範として読むことはできません
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