哲学者図鑑
理・変・己・先
孤高の建築家

まだ無い秩序を、一人で組み立てる

ガストン・バシュラールの似顔絵

ガストン・バシュラール

1884年〜1962年(フランス) / わかったつもりを、壊す

「科学に到達するとは、精神的に若返ること、過去と矛盾する突然の変異を受け入れることだ」

— 『科学的精神の形成』
郵便局員だった時間を、彼は最後まで下げていた。
意匠:郵便配達の鞄を、教授のガウンの下に提げたまま

あなたへ

もう分かっている、と思っていることで行き詰まっていませんか。何度考えても同じ結論に戻る。それは頭が悪いからではなく、はっきり分かっているつもりのものが、本当に見るべきものを覆い隠しているからだ、とバシュラールは言います。彼自身、郵便局で働きながら夜学に通い、教授になったのは56歳でした。遠回りは無駄ではなく土壌である、と言える人です。壊すのは、あなたの能力ではありません。あなたの「もう知っている」のほうです。

この人はこう考えた

郵便局員として働きながら夜学に通い、教授資格を取ったのは38歳、ソルボンヌの教授になったのは56歳。彼が研究したのは「科学の進歩を妨げるものは何か」で、答えは技術ではなく人間の思い込みだった。一番の障害は「わかったつもり」になること。過去の成功体験と意図的に断絶する勇気だけが、次を連れてくる。遠回りは土壌である。

こういうときは、この言葉

もう分かっているはずのことで、行き詰まったとき

「現実を前にしたとき、はっきり分かっていると思い込んでいることが、本当に知るべきことを覆い隠す」

Face au réel, ce qu’on croit savoir clairement offusque ce qu’on devrait savoir.

— 『科学的精神の形成』(1938年・原著14ページ)

邪魔をするのは無知ではなく、既に持っている知識のほうだという指摘。彼はこれを「認識論的障害」と呼んだ。

一般論の助言ばかりが集まるとき

「一般的な知識は、ほとんど宿命的に、あいまいな知識である」

Une connaissance générale est presque fatalement une connaissance vague.

— 『科学的精神の形成』(1938年・原著72ページ)

誰にでも当てはまる助言が効かないのは、あなたのせいではない。一般化した時点で、精度は落ちている。

知れば知るほど、不安が増えるとき

「現実についての知識は光である。そしてその光は、つねにどこかに影を投げる」

La connaissance du réel est une lumière qui projette toujours quelque part des ombres.

— 『科学的精神の形成』(1938年・原著13ページ)

分かった分だけ、分からない場所が増える。それは学びが失敗した証拠ではなく、進んだ証拠である。

うまくいかないことが、続くとき

「私たちは、自然に抵抗することによって、自然を理解する」

Nous comprenons la Nature en lui résistant.

— 『科学的精神の形成』(1938年・原著23ページ)

すんなり通ったものは、理解されていない。手応えがあるということは、そこに何かがあるということである。

入口になる本

入口
空間の詩学
ガストン・バシュラール/岩村行雄 訳(ちくま学芸文庫)
家や部屋が想像力に何をしているかが分かる。仕事場を変えたくなる一冊。
まず読むなら第1章「家 地下室から屋根裏まで」。自分の部屋を思い出しながら読める
読み終えると住む場所が想像力に何をしているかが分かる。机の位置を変えたくなる
向かないのは詩の引用が多い。論証を追いたい人には、『科学的精神の形成』のほうが向く
本命
科学的精神の形成
ガストン・バシュラール/及川馥 訳(平凡社ライブラリー)
「わかったつもり」がどう思考を止めるのかを、具体例で解剖している。
まず読むなら序論と第1章「認識論的障害の概念」。「わかったつもり」の分類がそこにある
読み終えると考えが止まる原因を、意志ではなく構造として点検できるようになる
向かないのは科学史の具体例が中心。自己啓発の言葉を期待すると、面食らう
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